Q なぜこのような職業訓練の場を設ける必要があったのか、その設立の趣旨について教えてください。
 当時、知的障害者の雇用対策については、各方面からその遅れや困難性が指摘されていましたが、障害のあるご本人からは「社会へ出て働きたい」、そして、保護者、関係者からは「自立できるようになってほしい」と職業的自立をのぞむ声が強く広がり、社会的ニーズになっていました。
このような情勢のなかで、早急に対応すべき課題として、職業能力の評価体制の充実、職域の開発、職業能力の開発体制の充実など、それらの条件整備を図るために、さまざまな対策の推進が必要とされていたのです。
職業的自立を図る上で最も重要な能力開発訓練については、知的障害者の特性に基づき、独自の組織と訓練体系を確立して、官民一体となった取り組みが一番良いのではないかと判断されたわけです。
そこで、地方公共団体と、民間のノウハウを最大限に活かした第三セクター方式による能力開発センターが設置されることになりました。そして、知的障害者の職業的自立のための訓練が実施され、雇用の促進が図られ、今日に至っています。

Q 何か設立の基になったそれまでの取り組みなどがあったのでしょうか。
 設立の基になった、当センターの姉妹法人のコロニー雲仙の援護施設では、利用者を社会へと送り出していました。そこでは昭和58年から2年間、20人の方々を対象に授産施設と企業が連携する重度障害者特別能力開発訓練事業を取り入れて実施していました。これをさらに発展させて取り組んだのが、職業訓練の専門施設である長崎能力開発センターなのです。

Q なぜ第三セクター方式なのですか。
 当センターは、障害者の雇用や訓練のノウハウを持つ民間企業や団体(民間セクター)と、地方公共団体(公的セクター)とが一体となって設置、運営をしています。公的な良さと、民間のノウハウを出し合うという利点から、第三セクター方式で行うことになりました。
公の機関の良さというのは、教育、福祉などの制度、関連施策等、情報を豊富に持っていることなどであり、一方、民間の良さというのは、販売、技術、就職先の確保などにあります。
このように、お互いの良さを出し合って運営していこうという考え方によるものです。

Q 2年間の訓練になっていますが本当に、それだけの年月が必要なのでしょうか。また、どのような考えの下で現在に至っているのですか。
 利用者本人の状況にもよりますが、基本的には2年間という訓練期間は必要だと思います。職業能力開発促進法では、長期間の訓練課程で普通課程に当たります。
当センターではこの2年間の訓練課程に設定いたしました。なぜ、2年間の訓練にしたか。その大きな理由としては、知的障害の特性から考えて、物事の習得に時間がかかる場合が多いからです。実際的な作業を通じて何回も繰り返し訓練することが必要です。
入校して、1年半は当センターでの各科での訓練、残りの半年は、今まで訓練で学んだことを応用して、職場などの実習に入っていく専攻実技という課程になります。
これは職場適応訓練の考え方も参考に職場実習を行うものです。もし、職場適応訓練という制度であれば、1ヶ所の事業所にしか行けませんが、職場実習であれば、1ヶ所だけにこだわらずに、いろいろな事業所で職場体験を試行することができます。
また、この期間の職場探しは事前に職場を調査するという意味もあるわけです。
学校教育の課程では知的障害というハンディがある方について、本格的に職業について学ぶ時間が少ないように思います。職場での実習なども限られています。
このようなハンディキャップを背負っているにも拘らず、なぜ、あまり職業のための訓練を受けないまま、先に社会へ送り出されるのか。
そういう意味では、職業や社会生活について、ある程度時間をかけて、深く学ぶことが必要ではないでしょうか。
短大や専門学校に行っているような位置づけで考えて差し支えないと思います。
普通、簡単と思われている仕事内容であったとしても、知的障害のあるご本人にとっては、とても高い技術水準を求められている場合が多いのです。健常者といわれる人たちの理論、尺度では計れません。そこを我々は重視すべきです。
基本的には、働くための心の準備と労働に耐えられる身体づくりをしてから社会へ送り出すことが必要な事だろうと思います。

Q なぜ訓練科目として、畜産科と麺製造科を取り入れたのですか。
 まず、麺製造業、畜産業とういうのが、地場産業であったことが大きな理由です。
さらに、運営・経営という面で、関係する民間の企業の協力も得られるという利点もあります。
麺製造科においては、技術と、緻密な作業による訓練がねらいです。畜産科では、生き物を対象としていることから、情操教育という視点での訓練、加えて、出荷・販売などに関する数・量の計算なども訓練の一部として捉えています。また、技術の訓練と共に、体力の強化、職業人を育てるために『働く』という意識の向上も同時に図っていくことを目的としています。

Q パトロールリングシステムを取り入れていますが、その意味は何ですか。また、そのシステムを取り入れた理由を教えて下さい。
 ボーイスカウトなどで取り入れられた班制度による教育です。縦割りではなく、それぞれの役割に応じた班制度による教育です。例えば、当センターでは体育委員、食事委員、美化委員、保健委員などの役割の人がいますが、各主任が主体となって動き、協力を求めたり、指示を出したりします。食事をする時は、食事主任が中心となって動くなど、班長もそれに従って動きます。
班制教育によって、チームワーク、責任、自立心、協力する心、リーダーシップなどを学びます。

Q なぜ全寮制なのですか。
 当センターでは、職業訓練と同時に生活訓練も行っています。職場定着ができるかどうかは、安定した生活能力を伴っているかという点で大きく左右されます。仕事ができなくて離職するケースよりも、それ以外の生活の乱れ、人間関係などで離職するケースが多いというのが現実です。
ですから、自立心を促すためにも、親元を離れて生活する経験をして、感謝する心を養い、集団生活をすることによって思いやりや協調性を身に付けていくという点において、寮生活は意味があるのではないかと思います。
実際に、寄宿舎での仲間同士の共同生活においては、円滑な対人関係をつくり、協調性を少しずつ身に付けていかないとご本人自身が困る事になります。
また、規則正しい生活習慣を身に付け、身の回りのことを自らの力でやれるようになること、健康管理においても自分で行うこと、結局、これらのことが、職場継続につながつていくのだと考えます。
もう一つ、全寮制にする理由としては、長崎県は離島も多く、遠方の人たちが利用しやすいようにするという点もあります。

Q なぜ、男女が同じ棟で居住を共にするのですか。
 社会へ出た場合、男女がいることがノーマルです。普通に男女がいて、その中でルールを守ることを指導するという点においても、男女一緒の寮で生活することには意味があります。確かに、このように男女が一緒に住んでいると異性の問題も出てきますが、一概にマイナス面ばかりではなく、指導のチャンスであるとも考えます。この2年間の訓練中は様々なことを勉強していく期間であり、この2年間の間にきちんとした知識・ルールを教えていくことが重要です。
ですから、この訓練期間に問題として表に出たことについては、それを指導し好ましい方向へ導くことが大切です。
また、男女が一緒に暮らすことで、役割分担を認識し、異性がいることで、意識して、格好などに気を払うという良い影響もあります。

Q なぜ制服を着用するようになったのですか。
 当初は作業服でした。知的障害者に対する一般のイメージ…見た格好がだらしない、動作が緩慢、物事をはっきり言わない、などいろいろと良くないイメージがありますね。まずは見た格好からきちんとさせたい。マイナスのイメージを取り払うための一つの方法として、制服を取り入れました。また、ネクタイを締めることによって気分的にも引き締まるという効果もあるように思います。
服装はその人の心の状態も表しており、とても大事なものです。

Q 入校したら、おおよそ1ヶ月程導入訓練をしていますが、どうして導入訓練が必要なのでしょうか。
 入校してすぐというのは何もかも初めての事ばかりです。本人たちにも心の準備が必要です。職員側も本人たちを理解し、把握するためにこのような期間があった方が良いわけです。簡易的な作業から始め、作業に対する動機づけ、ラポート作り、そして観察を通して本人の課題、適性などを発見していきます。

Q 導入訓練の締めくくりとして、何故移動キャンプをするのですか。
 移動キャンプというのは、導入訓練の一部です。物質的に豊かな時代に育ってきた人たちにとって、普通に生活をしていたら、何でも満たされており、『あるのが当たり前』という意識です。ほとんどの人が食料・道具・火・水・電気等に困らない生活を送っているはずです。その有り難さが分からず、物を粗末に扱ってしまい、ムダに使ってしまうという傾向があります。その有り難さを感じてもらうにはどうしたらいいか…満たされていない状況において、その大切さを教えていく。それをキャンプの中で学び、さらには、各グループにおける各自の役割を責任もって行うこと、協力する大切さ、何かをやり遂げたという達成感を味わってほしい…そういう思いから「移動キャンプ」を実施しています。

Q 余暇の活動として、サークル活動について取り組んでいますがそれにはどのような意味がありますか。
 余暇の充実という点において、夜の時間を使ってのサークル活動があります。
サッカー・陸上・和太鼓の3つのクラブと、それにバイクの免許取得のための学習、生け花教室などを行っています。単に、余った時間をどう過ごすかということではなく、働く以外に楽しみを見つけることでさらに豊かな生活を築くことができると思います。
楽しみながら・能力を開発するという意味も含め、自主的に行い、先輩が後輩に教えるという良さもあります。実際に行っているサークル活動のほかにも、訓練生が得意とすること、楽しいと思えることであればそれは余暇活動の一つとして捉えています。また、将来的に趣味の一つとなることも期待しています。

Q 夏期・冬期家庭実習・一泊帰省の意義は何でしようか。
 帰省して家で過ごすことを、夏休み、冬休みということだけで捉えるのではありません。“家庭実習”と表現する意味は、単なる帰省ではなく、センターで学んだこと・日頃やっていることが自宅に戻ってからもできるかということ、また、親が子の変化に気づいてもらうためという意味も含んでいます。
たまに帰ると、帰る方も迎える方もお客様的な扱いになってしまい、自主性・目立心が失われます。そのため、センターでは家庭実習と表現し、自宅に帰っても自分のことは自分でするという意識を持って取り組むよう意識づけをして帰省してもらいます。
また、1学年の後半に土、日を利用して一泊帰省を取り入れているのは、年に2回の帰省だけではなく、いつでも帰れるという意識、親子の距離を縮めるために一泊帰省を実施するという意味です。
全寮制となると、親もセンターでの生活は見えにくかったりするところがあり、そのような帰省によって、じっくりと家族と話す機会を持ったり、励まして下さったりできるという意義もあります。

Q 寮の中で訓練生はいろいろな役割をもっていますが、例えば、その中で、食事を当番制で準備する事にはどういう意義がありますか。
 寄宿舎というのは、本人たちが自分たちだけで20人で住んでいるというのが基本です。集団生活だから、ルールを決めなければいけません。当然、その中に食事をどうするかということがでてきます。20人だけの生活だから、自然と当番制という発想が出てきます。当初は、献立を立て、材料を買いに行き、そして調理をするという風に一連の流れを全てやっていました。
しかし、本人たちだけで賄うのは難しいものがあります。それで、献立・材料・ある程度の調理までを外部の食事サービス業(福祉工場)へ委託して、簡単な調理・配膳・片付けを自分達だけでやる事になりました。
食事については食べる楽しさ・作る楽しさ・健康管理…などを教えていきたい。将来、食事を作る仕事をしたいという希望が出てくる可能性もあります。単に食事作り・配膳ではなく、様々な意味を含み、訓練につながっていると思います。数・量・火の危険性などあらゆるものが教材になります。
さらに、2年生が1年生に教える良さというのもあります。

Q 修了する時に、自宅誓約を結んでいますが、これにはどういう意味がありますか。
 学生時代は収入がありませんが、能力開発センターを卒業して自宅に帰った、就職して働くわけですから収入があります。当然、自宅で生活するためには、生活費が必要です。
グループホームやアパートで生活する人たちは、自分の収入で全てを賄うのに、自宅に帰る人だけは、お金がかからないというのは、おかしい。そこで自宅誓約をして最低限の費用は払うとか、約束事を親子間で決めてもらいます。本人たちにもどれだけ費用がかかるかを知ってほしいと思います。将来、結婚もしたいという希望があるのなら、1ヶ月にどのくらい必要なのか、自宅でも教えていってほしいところです。自立心を育てるためにも必要なことです。

Q アパートの生活実習や必要経費調べなどをしていますがどういう意味がありますか。
 本人たちがイメージするアパートとは、家具や電気器具類などすべて揃った状態です。しかし、そこには何もないということを体験させるために、実習をしてもらいます。
どういう物をどれだけ買い揃えないといけないかを学習し、それがどのくらいの値段なのか調べることによって現実を知っていきます。アパートを実際見せた方がより効果的です。自分の生活する場所がどういう状況かを把握、体験させるとよく理解できます。
言葉で大変さを教えるよりも、実際に体験し、学んでいくことで、より、理解が深まるのだと思います。

Q 訓練生自身で職探しをしていますが、本人だけでは探した成果が出ないように思いますが…
 職探しはいわば崖っぷちの教育だと思っています。不況だから仕事がないということを言葉で説明するだけでは、本人たちは分かりにくい。
自分で職場を探して回る体験を通して、現実を学ぶ機会として捉えています。実際に回ってみたらそう簡単に見つかるものではありません。職場の実習先が見つからないことの悩み、そしてその事を一緒に解決していく時、職員と訓練生の心の結びつきが深まっていきます。
そして、職場があることの大切さ、有り難さも学んで頂きたい。この時が能力開発センターに来た意味、あるいは個々人の課題、目標を再認識する機会にもなります。最終的には職員の紹介で決まっていく者がほとんどです。

Q バイクの免許(原付免許)の受験を勧めていますが、それは何故ですか。
 能力開発センターを出ても基本的には何の資格もありません。
そして、就職しても移動方法がない場合もあります。いつも車で誰かに送ってもらうのではなく、自分で移動できるようにという発想からバイク受験をさせるようになりました。
移動方法を持っていると便利というだけではなく、バイクの魅力を感じたり、資格を取る事によって自信を持ってもらうという意味も含んでいます。